「明日の君と逢うために」 レビュー
明日の君と逢うために 初回限定版
明日の君と逢うために 初回限定版
ブランド:Purple software 発売日:2007-11-30
シナリオライター:鏡遊 , 北川晴 原画:倉嶋丈康(まっぴーらっく.)


シナリオ:19点 テキスト:7点 キャラ:9点 主人公:5点
音楽:10点 グラフィック:20点 演出:5点 システム:3点

総合:78点
一言レビュー「演出もすごいしキャラも可愛いしシナリオもそれなりに面白いし安いしオススメしたい。けど長い。」

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シナリオ:19/30

このゲームは「止まった時が動き始めること」がテーマになっています。
それはもちろん、主人公でもあり、ヒロインでもあります。
例えば、主人公で言えば明快ですね。「あーちゃん」が消えたあの日から止まったままの時間が、島に帰ることで明日香と再開して、止まっていた主人公の中の時間が動き始めます。
ヒロインでもそう。小夜は姉とのしがらみから開放され(と言うには微妙ですが)現実に新しい絆を作ることで、新しい時間を生きることを選びます。
瑠璃子は終わることを諦観しつつも過ごしてきた日々に対して、現実に新しい生きる希望を見出すことで、終わりを迎えつつ合った時との決別を図ります。
明日香は言うまでもなく、自分の過去と決別し、新しい自分を、新しい人生を模索します。
里佳は…どうなんでしょう。微妙だったような気がします。行き遅れが新しいターニングポイントを見つけたってことでしょうか
あさひ先輩は、人間として人を好きになることでより一層人間らしくという点がそれっぽいような気もします。
舞も似たようなものでしょうか。

その中で鍵となってくるのが、神隠しという設定ですが、なんだかあんまり活きてなかったような気もします。
神隠しというか、「神隠れ」ですよね。自分の意志で選択して「向こう側」へ向かっているわけですから。
そして不思議なのが誰も神を必要としていないことでりんが消える設定。
一般的に「神隠し」として認識されているので、神は忌まれる存在であるべきではないのかなって思いました。
「神隠れ」として認識している主人公サイドでもそう。神に存在を“奪われた”小夜であれば神に対してもっと憎しみを抱くものではないでしょうか。
そうすればベクトルこそ問題があっても、やはり神は必要とされるのではないのかな。と思いました。
舞ルートでは神隠しが全然関係ないと言いましたが、神隠しが活きてるなって思ったのは実は舞ルートです。
明日香が「向こう側」に行かなかったらあの終盤の味は出なかったようにも思えます。明日香には悪いですが。

また、もう少し神隠しや「向こう側」を使えば面白い話になったような気もするのですが、結局一番面白かったのって日常パートだった気がします。
シナリオで言えば「神隠し」が全く関係ない舞ルートとかが面白かったですしね。
北川晴さんもやればできるじゃないですか!!と思ったルートでした。
神隠し絡みのシナリオに飽きつつあったのかもしれませんが、明日香が消えてからの舞の献身的な、且つ愛してるがゆえに突き放すような姿勢はすごく良かったです。

神隠しが絡んだシナリオもそれなりに面白かったのですが、やっぱりなんだか微妙というか、読むに連れて失速していった気がするのです。
僕は小夜→瑠璃子(最初はこの2人しか攻略できないらしいです)→舞→あさひ先輩→明日香→里佳でクリアしましたが
面白かったのは小夜>舞>瑠璃子>明日香>>>>>>>里佳≧あさひ先輩でした。

また、「向こう側」の設定を活かせてるなぁと思ったのが小夜・瑠璃子のED分岐ですね。
よく考えると、この二人にしかこれらの選択を与えることが出来ないんですよね。
小夜であればなんだかんだ言いつつも姉に対して未練が断てていないので、この選択肢を提示することで
「向こう側」へ行かないことでより一創作品のテーマを引き立たせることが出来ます。
選ばれた場合は主人公の時間はまた止まってしまうような気もしますが、そこはご都合エンドで。僕は好きですけど。
瑠璃子についても、どちらの選択にしても既に選択を迫られる地点で彼女の生きるという意思が感じられる、面白い選択肢だなと思いました。ルートのテーマは愛でしょうか。

では何故この二人にしか与えられなかったのか。
まず舞は神を必要としていないヒロインなので、向こう側というもの自体に興味を惹かれていないので、現れることのない選択肢ですね。
あさひ先輩は自分が人間を演じてることに違和感を感じているので、「向こう川」へ帰る選択肢が与えられるかもしれませんが
彼女はそれでも人間であることを楽しんでいるし、望んで人間になった立場からすると、「向こう側」へ帰ることは選択として挙げられない気がします。
では明日香。彼女は帰ろうとします。選択の機会そのものは与えられます。が、一度帰っているので主人公がそれをさせないですね。
ここは選択肢がないことが逆に深みを与える結果になったような気もして、他のルートで選択肢を提示した上であえて提示しない展開というのはなかなか面白いと思いました。
里佳はどこか達観してるので、それでいて向こう側への憧れもなく、選択する立場に立つことは出来ないと考えました。

ただ残念だったのが、前述通り失速していったことですね。
引き込みはすごく良かっただけに、残念だと感じてしまいました。
また、メインヒロインである明日香シナリオが別にそこまで面白くないぜ!というところや
トリを飾る里佳シナリオが微妙だったぜ!という点も消化不良感を感じる一端になっているような気もします。
里佳ルートって途中までは面白かったんですけどね。ただ里佳との恋人関係がすごく茶番に感じたというか、なんというか。僕だけでしょうか。
取って付けたようなイチャラブに僕はなんだか冷めた目でプレイしてたような気がします。

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テキスト:7/10

なんというかテキストに勢いがあって、演出もそれを補助してて、読んでて眠いとかあんまり思わなかったです。
あさひ先輩ルートは睡眠誘導剤でした。
ただ突き抜けて面白かったわけじゃないのですが、七海がサブキャラなのはある意味ベストな配置だったのでは?と思いました。
七海みたいな突き抜けたアホキャラクターはテキストに緩急をつけるにはうってつけのキャラかなぁ、と思います。
キャラの掛け合いはそれなりに面白かったです。

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ヒロイン・サブキャラクター:9/10

七海が攻略できないとかバグだよ!!!!!
などと自分の数行前の文章を早速否定しているわけですが!w

個人的にベストキャラは小夜。素晴らしい造形美です。
個人的に誰もいない「向こう側」の教室でスカートをぱたぱたしてるCGが好きです。



これ。女の子の無防備な姿ってすごくいいなぁって思うんですよ、僕。
そして、これはこのCGとは違ってた立ち絵ですが、照れた顔もGOOD。ツンデレというわけでもないのですが、こう素直になれないキャラクターは僕の大好物なので(テンプレのツンデレは苦手ですが)
個人的にはベストキャラクターだったなぁと思います。

瑠璃子も良かったと思います。こういうおっとりキャラは苦手だったりしたのですが
彼女はおっとりキャラクターぽさを出しながら、どこか芯を持った言動をしていたような気もします。
告白して、そして受け身にならずに主人公に回答を促す態度なんかを見てて、すごい。ただのおっとりキャラじゃない。と思いました。7年間は伊達ではないのでしょうか。
告白といえば、僕がこのゲームで一番好きなCGが瑠璃子の告白シーンです。すごく綺麗でした。演出がすごい頑張ってましたね。


これ。すごく綺麗でした。しかも背景が動くんですよね。とても印象に残ってます。

舞も好きです。あの「ふふん!」って感じの立ち絵が好きですし、ルートが終わった後だから分かるOPアニメーションの舞が胸ぐらをつかむシーンなんかもいいなぁと思います。
彼女はこのゲーム唯一の(というと失礼ですが)普通の女の子なので、逆に際立って可愛く見えたのかもしれませんが。
デレはじめたら「なにこのかわいいいきもの」って感じでした。イイネ!

明日香。メインヒロインのはずなのにメインなんてなかったなんて扱いを受けてるような不遇な感じのする娘です。
彼女は彼女で可愛いんですけどね。ただこう色々と惜しいので。シナリオだとか。
キャラで言えば縦横無尽に動き回る元気な感じで作品の活力というか勢いというか。やっぱり流れを引っ張っていたのは彼女だと思います。
もう少し知識を吸収する上での勉強に対する苦労や何かを見せるとキャラに深みが出たような気もします。
天才肌なので、とりあえずやればなんでもできるという万能キャラが板につきすぎて、どこか薄っぺらいなぁと感じたりもしました。

あさひ先輩。個別ではいいキャラだったなぁと思うのです。むしろサブキャラで七海と似たようなポジションだったのでルートいらなかったんじゃないかな!とすら思えますね。
里佳姉。うーん。彼女だけ特に感想が出てきません。

全体的に見てもキャラの出来は素晴らしかったのではないでしょうか。
また、キャラゲーっぽさが否めないにもかかわらず、キャラとイチャラブをあんまりしないという点も僕的には評価したいなぁと思いました。
りんルートが熱望される声を多く聞きますが、僕はなかったほうがいいなぁと思います。

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主人公:5/10

何気にこの主人公の与える影響力というのは大きいものがありまして。
具体的には僕がこのゲームやってると料理したくなります。できないけど。
また、思考が、仕草が。エロゲ主人公にしては人間味があったなぁと思います。
ルートによってはどうしようもなくなりますどね…。舞ルートとか。
また、エロゲ主人公にしては珍しく、非常に受け身というか。思ったより決断力がないですね。
ヒロインが積極的だからそう映っただけかもしれませんが。

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声優・音楽:10/10



OPが神ってました。すごい。全員裸なのはなんでなんだぜ!?という点を除けばすごくいいなぁと思います。
どこが作ってるか知りませんが、どことなくエロアニメっぽい書き方だなぁという印象を受けました。
ただこのよく分からない盛大な疾走感はすごいと思います。劇場版アニメのOPって言われても信じそうですよ僕。
OP曲のTIMEもすごくいい曲だと思いましたし、かなり好きです。

また、声優に関してはほぼベストな配置だったように感じられました。
木村あやかさんを個人的にすごく久しぶりに見かけたような気がしましたが、相変わらずこのどこかワンテンポ遅れるような声はすごい。
全く声優配置には違和感を感じず、これ以上の布陣があるのかなぁとすら思って、何の文句もなかったです。

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グラフィック:20/20

素晴らしかったです。原画も去ることながら背景がすごい。夏っぽさを感じさせつつ原画を邪魔してなくて引き立てててすごいと思いました。
また、この手のゲームはどうしても立ち絵がクオリティ高すぎて一枚絵のCGが劣って見えることがあるのですが
このゲームはそんなこともなく。むしろCGの差分においてはかなり頑張っていたほうだとすら思えます。
当然演出の力を借りていることもそれを支えている大きなファクタの一つではあると思うのですが
グラフィックという点で見れば、このゲームは4年前のゲームと考えても今でも全然現役で通じるようなものを感じました。
キャラ造形も素晴らしかったので満点です。

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演出:5/5

このゲームは演出ゲーです。(褒めてます)
それぐらい演出がすごい。動く動く。歩いててもCGが動く。背景が動く。電車が動く。なんだこれすごい!!ってなってました。
電車は動いても背景の距離が変わらない点は少し残念でしたが、そんなところ誰も求めてないと思いますので。
端々の演出やSEなんかが素晴らしくて、立ち絵はぐるぐる動いてテンポを損なわず。
少しEDへの入り方が唐突だったなぁという点が残念にも感じるのですが、それを差し引いても余りある演出力には脱帽しました。

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システム:3/5

思ったより微妙でした。僕の環境だと全画面が使えませんでした。
また、選択肢へ戻るを内蔵しながらも選択肢では使えないというジレンマを抱えておりまして、なんとも言えません。
メッセージ枠の透過率を調整できなかった点も少し残念だなぁと感じました。

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総合:78/100

よくPurple softwareのゲームは演出とキャラだけで売ってるみたいな話を聞きますが
今回の明日君は、それなりのシナリオとキャラと演出が噛みあった、総合的に見れば出来のいいゲームだったと思いますよ。
お値段もお手頃なので、長めのゲームがやりたいなぁって思う夏の日にオススメです。



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