「CROSS†CHANNEL」 レビュー
CROSS CHANNEL
CROSS CHANNEL
ブランド:FlyingShin 発売日:2003-09-26
シナリオライター:田中ロミオ 原画:松竜


シナリオ:27点 テキスト:10点 キャラ:10点 主人公:10点
音楽:10点 グラフィック:14点 演出:5点 システム:2点

総合:88点
一言レビュー「人はいつでも誰かとの繋がりを求めて生きているのかもしれません。」

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シナリオ:27/30

エロゲの中でも屈指の名作と言われるほどの知名度を誇る「CROSS†CHANNEL」
何故か最近になって中古価格も高騰を見せ始めましたね。
今までずっと積んでて、プレイしませんでした。何度も勧められました。けれどやりませんでした。その理由は、怖かったからです。
何事も他者の評判において作品そのものに対する期待値が高くなり、それはやがて積もりに積もり神格の域へと到達する。
そしてそんな大層で高尚なものを読み、面白くなかったらどうしよう。と思うわけです。
また、面白かったとしても「面白かった」などと小学生程度の感想しか出なかったらどうしよう。と思うわけです。
などという理由で、プレイするのが怖かったのです。僕だけでしょうか。この手の感覚で名作に手が伸びづらいのは。
いい加減にその感覚を打ち破ろうと思って、今回手を付けました。

結果的に言えば、やはり期待値が大きすぎました。
確かに面白かったです。シナリオの構築もすごかったです。テーマやキャラの持つ重さも良かったと思いますし
個人的に、権利を剥奪された者たちが新しく権利を手にしよう、とする心理描写が僕は好きでした。
異端者扱いされ、友達や何やらを失い(あるいは最初からいない)それでいても、仮初でもごっこでもいいから
それらに対する羨望の形として、それこそ形だけでもそれらに取り組む。
中身なんてない、空疎なものであったとしても。そこに描かれた羨望の描写、何気ない行為の貴さを描いた描写が印象的でした。
主にぺけくんですね。僕は就職で人間関係をリセットして、加えて人間関係がこちらではあまり上手く行っていないので
失って分かるもの、そしてここではないけれど、しかしどこかにいる、支えてくれる友人、という
「黒須ちゃん†寝る」におけるラジオ放送の原稿では、自分の事情を加味して、少しこみ上げるものがありました。
いびつながらも、まごうことなき「青春」をテーマにしたゲームだとは思います。

しかし、しかし期待が大きすぎたんです。もっと叙述的な何かを期待してた僕がイケナイのかもしれませんが。
読んでて、面白かったけど驚きという意味ではエンターテイメント性に欠けるな、と思っていたのです。
ループと神隠しの謎もそうですし、序盤のテキストがあれだけアップテンポで飛ばしてたのでエンターテイメントを期待してしまったのです。
実際はそのエンターテイメント性すら演技であり、理由ある行動であったと、後に振り返るとそれはそれで味があるのですが。

もうひとつはテーマが薄味だったこと。確かに尊くかけがえのない、どこにでもあり、しかし崇高なもの、青春という時間。
それをテーマにして、触れ合いと成長をテーマにした物語としては非常に高い完成度を誇っていると思います。
ゲーム自体としてはすごく深く、そしてどこか澄んでるような印象を受ける作りで。でもやっぱり、あっさりしすぎというか。
ラーメン屋行って極上の塩ラーメン食べたけど、何かこう満足感はあるけど満腹感はない。みたいな感じです。

前評判高すぎて期待値がメーター振り切っていた、というのもやはりマイナスポイントになっているのかも。
ループモノであることを知らなければ恐らくはわからん殺しされて一気に引きこまれたのでしょうけど
ループモノで言えば似たような救済を図るものとして幾つかゲームをプレイしているので、新鮮味はなかったのも残念ですね。
こんなに寝かせるべきではなかったかな、とも思いました。

では期待ハズレだったのか?と言われると、断じて期待ハズレではなかったです。
別のベクトルになってしまいましたが、すごく面白かったです。
ただ、とんこつラーメン食べに行ったらオススメされた塩ラーメン食べて帰ってきて
本来の予定とは違ったけど、美味しかったからいいやみたいな、そんな感じなだけで。

ではどういう層にプレイしてもらいたいのか、ということを考えます。
僕のようなシリアスよりどちらかと言えばポップというかコメディタッチを好む人間にはあまり向かないかな、と思います。
しかし、そんな人でも以下の状態に当てはまるなら僕はプレイして欲しいと思います。

・現実が鬱屈。生きるのが辛い。そんな社会人。

対象があまりに限定的ですが。というか自分のことなのですが…w
時間の大切さを思い出させてくれます。それは友人と過ごした他愛ない時間であったり、そういうものです。
なんとなく話して。ご飯食べて。意味もなく長電話したり。
テーマーの一つとして、それらの尊さを噛み締めることで現実に立ち向かう活力にしろ、というメッセージ性を感じたからです。
もっと言えば自殺するなよって言ってるようにすら聞こえました。

ですので、僕はオススメしたいなって。思います。世界に自分を本当に理解できる人間は自分一人しかいないし、人間は本質的に一人だし、他者と一つになることはできないけれど。
寄り添うことは出来る。触れ合うことは出来る。それを多くの手段を講じて計らおうとする。基本的だけど、忘れがちなこと。
このゲームが終わったら、用がなくても友達に電話してみるのもいいかもしれません。

さて、ここまでだらだらとよく分からない例え話をしました。
そろそろシナリオの話をしようと思います。とはいえ語るべきというか疑問を投げるというか僕の勝手な考察を書くだけですが…。
何分「あとはご想像にお任せします」な描写が大きいこのゲームなので、僕の希望的観測というか、こうであればいいなぁと思うEDを記すだけです。

「黒須ちゃん†寝る」におけるループ脱出現象。
「黒須ちゃん†寝る」においてぺけくんが屋上で寝てるシーンがあります。
そこに他の部員7名が幽体?になって訪れるシーンがあります。
あそこはなんなんでしょうか、と考えたのですが、仮に人のいる送還を行った世界をα世界・ぺけくんが残った世界をβ世界と考えた場合。
β世界の時は恐らくまだループを繰り返していると思います。
それはα世界から来たぺけくんという異分子がまだβ世界に残留して干渉を続けているから。
ではあの幽体はなんだったのか。分かりません。なのでここではα世界へ送還されたメンバーだと仮定します。

α世界とβ世界では時間の流れが違います。
それは「黒須ちゃん†寝る」での放送の時間に齟齬があること、一瞬で日没を迎える日曜日などを見れば分かると思います。
であるばらば。α世界からβ世界へやってきた、α世界で死んでしまった(出来れば寿命がいいですね…)送還されたメンバーの幽体が
「黒須ちゃん†寝る」EDで現れた謎の声ではないのか、と思ったのです(その割にぺけくん若すぎるので無茶な気もしますが)

何故死後の幽体がα世界からβ世界へ至れるのか、なんて言われるとすごく弱いですが
電波を通じてα世界とβ世界はクロスポイントがあるはずなので、その辺りは適当に…。

で、僕はこの「黒須ちゃん†寝る」というのは寝る=死の暗喩で、†=墓だと思ってます。
みみ先輩に日中に屋上で寝てると熱中症で死にますよみたいなことを言ってるシーンがありまして。
それが引っかかって、屋上で寝てる。霊体の声が聞こえる=死にかけている
そして最後に蝉の鳴き声が聞こえる。つまりそれは、ぺけくんが世界から消えたから。伏線(と呼ぶには無理がありますが)通りなら熱中症で。
結果、β世界の異分子が世界に残留しなくなったから、β世界はループを辞め、元の世界としての形を取り戻した。

β世界で死んでしまったぺけくんは、α世界の仲間たちと幽体となって、それこそ死後も「人間らしく」天へ昇ったんじゃないかなって。
僕は、そうであって欲しいなと思いました。

仮にβ世界の惨殺された魂の残留思念であった場合だと、どうしても考えたくなかったんですよね。
何故殺されたことを許容しているのか。また、あの幽体連中の駆け引きを見ていると思うのですが
どう見ても思考はα世界に戻された後に個人の重さと向き合い、そして折り合いをつけた後のように思えます。
β世界での彼らは非常に険悪なものがあり、やはりとてもではないですがあの幽体がβ世界のものであるとは思えませんでした。
ですので、僕はこの自分の説を信じたいなぁ、と思いつつ、整合性弱いなぁ。ご都合主義だなぁ。とも思うわけでして。

そんな風に考えられるだけ、このゲームは面白かったと思います。

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テキスト:10/10

面白い。そして素晴らしい。頭の悪いギャグなのにどこか知的な感じがするのもそうですし
何よりテキスト位の表示テンポがスゴイ。
ここはスクリプターを褒めるところなのかもしれませんが、一回で表示されるテキストの分量が絶妙です。
一言だけ表示されたりする場面も非常に多いのですが、それがテンポ配分がすごく良くて。引き立てていたようにも思えます。
また、ギャグだけではなくシリアスな場面でのテキスト表現も(少し難しかったりする場面もありましたが)よろしく。
よく「ロミオは難解」と言われる気がしますが、それほどのものではなかったように思えます。
神樹とイマは意味不明らしいですが…

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ヒロイン・サブキャラクター:10/10

各キャラ掘り下げてあって、重さとテーマがあって。良かったと思います。
みみ先輩には特に共感しました。逃避先として何かに依存し、かつそれが終わらないようにわざと遠回りな手段を取る。
僕にも思い当たるフシが多くあるので、僕はみみ先輩に似てるんじゃないかなぁ、とプレイ中に思っていました。
尤も、僕に規律を遵守することに躍起になるなどの属性はないので、その点はあまり似ていなかったのですが。

共感を覚えたのは冬子もそうですね。普段は孤立しているというか孤高なのに他人を求めて。
それでいて一度自分が従属的な人間を見つけ出すと、際限なく依存し、独占しようとする。
僕はそこまで酷いものではなかったですし、むしろ友達がこんなタイプで逆に苦労した気もしますが
やはり友達が友達の友達と話している(わかりづらい)場に居合わせたりすると少し居心地が悪いですし
自分が親しい友人とだけ付き合えばいい。積極的に手を広げて付き合いたくない人間に手を振る必要はない。などというスタンスで生きている僕としては
結果としてはそれは親しい友人に依存しているのではないかなぁ、と考えさせられもしました。

霧・美希・陽子に関しては割と普通でした。特に共感を覚えたわけではないので、そんな感想しか出ませんが…。

通して言えることは、どのヒロインも、人間としての不適合性があるからこそ群青に送られてきたのですが
実に、どのヒロインも実に「人間らしい」と僕は感じました。
自分の中の重さに悩み、葛藤し、折り合いをつけ、時には逃避をして。自分らしさを制御している。
制御できない時もあるけれど。それはとても、人間らしいと思いました。
動物であればそこは衝動に身を任せるだけですが、抗うことが出来るのは人間だけです。
「完成品」としての人間としては、やはり彼女たちは欠陥品かもしれない。けれど、僕にはそれが逆に、抗おうとする「人間らしさ」を垣間見れたような気がしました。

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主人公:10/10

ぺけくんは無敵超人だと思うぐらいのナイスガイでした。
そもそもこのゲームはぺけくんの成長物語であると言っても過言ではないですし
まさに“主人公”として物語を動かしているのも、彼です。実に主人公してたと思います。
特に前半のアホっぽさと後半のギャップもポイントだと思います。
また、人間としては狂っていると烙印を押されている彼ですが、彼の取った行動は非常に人間として強い行動だったと思います。
自分が原因で引っ張りこんでしまった他の部活仲間を、自分一人だけを残して元の世界へ送還させる。
そんな選択を、人としての感情の希薄な彼が選んだんです。僕はすごいことだと思いますし、僕なんかよりよっぽど人間として出来てると思います。
愛すべき馬鹿。センチなバカ。一番繊細なのに。必死で。触れ合おうとする。いい主人公でした。

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声優・音楽:10/10



EDがすごい。歌詞が。クリアした後に聞くとすごいです。(語彙貧困)
作詞がロミオさんなのでそれはそれはもうネタバレ満載ですけどね!w
声優のRitaさん起用してるんだからRitaさんでも良かった気がしますが…w

BGMがこのゲームを支えている一端だったようにも思えます。
普段は優しい音色の「School days」や「Blithe spirit」なんかの
どことなく終末感はあるけど、絶望的ではない終末感というか。穏やかな曲調による緩やかな時間が演出されていましたが
「Sign of fear」と「Silence」などの、シリアスな雰囲気に移行する。空気や思考を一気に引き締めるものもシナリオの中だるみ防止になっていたのではないかな、と思います。

声優ですが、文句が無いですね。ハマってます。もう少し桜庭を積極的なボケキャラで運用させてもいいんじゃないかなと思いましたが
作品の中にある設定的にもそれは難しいのでしょう。子安(に似た誰かが)がちょっともったいないかな?と思いました。

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グラフィック:14/20

9年前のゲームだと言われると、「え?」と言ってしまいそうな。
それぐらいには塗りに関しては違和感がなく、むしろ好きな淡い感じだったので良かったなぁと思います。
原画に関しても、少し微妙だなぁと思うものはあるものの概ね良かったと思います。

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演出:5/5

夕日が暮れる演出や、原稿が空に舞うシーンは良かったと思います。
他はSEやテキスト演出でしょうか。シナリオ上の演出という意味ではこのゲームは恐らく最高峰だと思います。

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システム:2/5

ここだけ少しダメかなぁと思った点。ディスクレス不可なのと、既読判定の弱さ。あとしょうがないですが640x480
ただ、送還編で選んだ選択肢が自動的に消えて行くのはいいなぁって思いました。選べない選択肢なので当たり前なのですが。

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総合:88/100

なんだかんだ言いつつも、僕はこのゲームに「魂」を感じました。
伝えたいテーマがあり、それを書き起こす。簡単そうで難しく。それを読み手に伝えるのって、すごく難しいと思います。
僕はこのゲームをプレイできて、本当に良かったと思います。
ただ、割と高いので、これからプレイするのなら移植版がいいかもしれません。

BEST HIT セレクション CROSS†CHANNEL ~To all people~
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